虫の知らせ

#078 / 十勝岳の二つの岩

岩になった若者と蛇の精

住所
空知郡上富良野町
緯度、経度
43.416619, 142.680826(詳細不明、暫定場所)
※あくまで目安であり正確な情報ではない場合がありますのでご注意ください
由来

「十勝岳の二つの岩」

若者と蛇の精の愛 上富良野


上富良野町に十勝岳にまつわる伝説がいくつかある。これはアイヌ神話をもとに昭和初期(一九三〇年代)に作られたものといわれ、「上富良野町史」に出てくる。

一人の若者が十勝川上流の谷間をあえぎながら登ってきた。山草や川魚をかじりながらここまで逃げてきたのだが、体にすり傷が何ヶ所もできていてもう限界だった。

見渡すと一面の花畑である。若者は疲労と空腹に目まいを覚えへなへなと倒れ込んだ。

夢うつつの中に輝くばかりに美しい娘が花籠を抱いて立っていて、

「深山の薬草を採りにきたのです。これは万病に効く霊薬です」

と言い、籠の中から薬草を取り出し、手渡してくれた。

夢から覚めた若者が手に握っていた深山ニンジンを口に含むと、ふくいくとした香りとなんともいえない味わいがして、勇気がわいてくるような気がした。

若者は花畑を登っていくと、間もなく絶壁の断崖に出た。白い濃霧が谷底から沸き上がってくる。谷間へ降りてみると、そこは火口になっていて、岩山の下に清水がこんこんと沸いていた。若者はそれを飲んで一息ついた。

白い霧の向こうに家があった。近づくと鋭い目光の翁が炉端に座っていた。若者は翁に勧められるままにここに落ち着き、湯につかりながら養生すると、何日もたたずによくなった。翁は言った。

「ここに長く住むべきではない。明日、西に延びた尾根を下って右へ右へ行け」

夜が明けると家も翁も消えて、若者は岩の上に寝ていた。ふと見ると、岩棚に小さな包みが置いてあり、中にまばゆく光る砂金が入っていた。若者は翁の言われた通り進んだ。

日も暮れかかるころ一軒の屋敷に着いた。中から美しい娘が出てきた。先日、薬草をくれた娘そっくりだった。若者はここに身を寄せ夢のような快楽の日々を過ごした。

娘は暑い日が続くと数時間かどこかへ姿を隠した。不思議に思い後をつけて行くと、無数のヘビがうごめく青白い沼の中へ入っていった。若者は娘がヘビの精と知りながらも、愛おしくて仕方がなかった。

娘に「連れて逃げて」と頼まれた若者は、娘の手を取ってあてもなく逃げた。そこへ沼のヘビが群れをなして襲ってきた。若者がヘビの嫌いな砂金を播くと黄金の霧となって降りかかり、ヘビの群れは轟音とともに谷底へ落ちていった。だがまだヘビは追ってきた。砂金もなくなった若者と娘はその場に倒れた。と、この時、霧が晴れ、ヌッカクシの山々が惚然と現れた。

若者が神に助けを求めると、地面を揺さぶるような音とともに岩が噴き上がり、熱湯が沸き出してヘビの群れは押し流された。二人は助け合って進んだ。だが、山は娘を、"魔性の女"と見て拒絶し、見る間に娘を噴煙で包んで黒い岩にしてしまった。

若者は悲しさのあまり七日七晩泣き続け、そのまま岩になってしまった。

二人の魂は今もここにとどまっているといわれ、春になると二つの岩に岩ツバメが舞い飛ぶ、という。

合田一道「北海道おどろおどろ物語」1995 幻洋社
参考資料・情報など
北海道おどろおどろ物語
合田一道「北海道おどろおどろ物語」1995 幻洋社
現地確認状況
未確認
その他
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更新履歴
2016/10/01 記載
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