無数の黒い蛇がでてきたオンコの木に棲んでいた巨大な白蛇を上川アイヌの長が退治した
オンコの大木と蛇塚
芦別市
新城の町を見おろす黄金の高台に、空高くそびえている大きな木があります。これが、有名なオンコ(イチイ)の木です。アイヌたちは、オンコを、とうとい木としてあがめ、高い位の人のつえをつくったりしました。また、病気をなおす神さまとして、おがむこともありました。
いつからか、はっきりしませんが、このオンコのそばにすをつくった黒ヘビは、ここにおまいりに来るアイヌたちを見ると、おそいかかるのでした。はじめは、そんなに数も多くなかったのですが、だんだんふえて、かぞえきれないくらいになりました。そうして、この木のあなに、すをつくり、はいだすようになったのでした。
これを知った多くのアイヌは、なにか悪いことがおこるのではないかと心配しました。
ところがある日のこと、上川アイヌのしゅう長が、とちゅうでりょうをしながらここまで来ましたが、どうしたことか、さっぱりえものがないので、
「きょうは、どうしたことだろう。いつもきているんだが、こんなことは一度もなかったのに。」
と、ひとりごとをいうのでした。
いつにかわらぬこのオンコの木は、きょうも、どんよりとくもった空高くそびえたっていました。
ササをわけ、しげった草をわけてたどりついたしゅう長は、オンコの木のまえにひざまずくと、両手をあわせて、しんけんないのりをささげるのでした。
しばらくすると、このオンコのまわりのササや草が、ざわつきだしました。はっと気がつき、オンコの根のまわりを見ると、根といわず、みきといわず、小さなあなというあなからかぞえきれないほどの黒ヘビがはい出して、このしゅう長に向かって、おそいかかってきました。
これを見たしゅう長は、大きな目でにらみつけ、
「神としてまつっているこの木に、すをつくり、ほかのものをおそうとはなにごとぞ。われは、大カムイからつかわされた使者であるぞ。きょうかぎり、たいさんせよ。そうでなければ、ばちがあたるであろう。」
と、声高らかにさけびました。そして、手に持っていた弓に毒矢をつがえ、満月のようにふりしぼって、いまにもはなそうとしました。
すると、ヘビたちは、いままでのいきおいはどこへやら、みな首をたれて、もとのあなにもどっていきました。
しばらくたって、オンコのおおあなから、一ぴきのまっ白な大蛇が出てきました。じっとじゅう長のほうを見ていましたが、するすると大きなからだをくねらせながら、ササやぶの中に入っていきました。
りょうを終わったしゅう長は、夕方、山をおりてアイヌたちに、
「もう、あの神木のオンコにはヘビのすむことはないであろう。」
といいました。
その後、何人ものアイヌがここに行きましたが、だれも黒ヘビのすがたを見た者がいませんでした。
黒ヘビたちがうつしたのは、そこから四百メートルほどのところにあるニレの木で、その後、百年間にわたってふえつづけ、あたりはみんなヘビのすになり、近づくことができませんでした。
それから年月がたって、この地を開くことになり、木を切たおして、火をつけてやきました。このときに、ヘビもやかれてみんな死にました。そのやけあとには、数百、数千のヘビのほねがちらばっていたので、近所の人たちは、そのほねをあつめて蛇塚をつくって、とむらいました。
文・木村 司