#075 / 札内川の怪物

幌尻岳にある札内川の水源近くの幻の湖

住所
中川郡幕別町
緯度、経度
不明
※あくまで目安であり正確な情報ではない場合がありますのでご注意ください
由来

「札内川の怪物とは」

山の樹木がヘビの群れに 幕別


札内川の水源近くの山に大きな湖があり、ここに恐ろしい怪物が棲んでいた、という。しかし湖を見たものはだれもおらず、怪物の正体も謎に包まれたままだ。「北海道の伝説」に恐怖に満ちた物語として書かれている。

札内川は幌尻岳に源を発し、中札内を経て幕別へいたり、帯広を経て十勝川に合流している。この川はどんな天気がよくても、ヒカタ風といって西北の風が吹くと、急に川の水が増え、ひどくなると氾濫を起こした。

なぜろうなるのかというと、この川の水源近くに大きな湖があり、ヒカタ風が吹き出すと湖が荒れて波立ち、あふれて流れ出すからだという。

そこでこの大きな湖を見ようと、これまで数人のアイヌたちが山へ登ってみたが、どこにもそんな湖はなく、樹木がざわざわと鳴るばかりだった。

でもたった一度だけ、湖らしいものを見かけた若者がいる。この若者はクマを射止めようとただ一人、山を歩いていると、急に視界が開けて湖のようなものが現れた。

「これが噂の湖か」

若者はそう思いながら湖に近づいたところ、突然、空が曇り、雷が激しく鳴り、大雨が降りだした。驚いて樹木の陰に身をひそめようとすると、あたりに生えていた草木がヘビに変わり、いっせいにこちらめがけて迫ってきた。

若者はあまりのことに立ちすくんだが、こんどは青色と赤色をした二頭のクマが現れ、キバを剥いて襲ってきた。一瞬、若者は意識を失って倒れた。

若者は間もなく魂が抜けたようになって帰ってきたが、ヘビが襲いかかってくるなどとあらぬ言葉を口ばしり、そのあげくふいにnどこかへ行ってしまい、それっきり戻ってこなかった。

人々は、

「あの山には怪物が棲んでいる。怪物に魂を奪われたのではないか」

と言っておののいた。

勇気のある若者が何人か、

「私が湖を探し、怪物の正体を見届けてやる」

と言って相次いで湖探しに出かけたが、だれ一人帰ってこなかった。人々は、

「怪物の餌食にされたに違いない」

と言い、震え上がった。

それからというもの、まぼろしの湖は恐怖の湖になり、ヒカタ風が吹き、水量が増すたびに、怪物が暴れて湖の水があふれるのだと言われるようになった。怪物は青色と赤色の毛のヒグマだと言うが、それを見たものはおらず、正体はわからない。

帯広の裸族伝説に出てくるまぼろしの湖の話と、一部、似ているところがあるが、それほど日高山脈は昔から恐怖の対象であったということなのだろう。

合田一道「北海道おどろおどろ物語」1995 幻洋社
由来2

札内川の怪物 --幕別--

札内川は幌尻岳に水源があり、中札内町付近を流れ、十勝川に合流する川です。

アイヌ語で水の流れている川という意味をもっていますが、むかしからヒカタ風(西北風)が吹くと、どんなによい天気の日でも水の量が急に増加するといわれていました。

それは、この川の水源近くの山には大きな湖があって西北の風が吹くと湖の水が波立って流れ出すためなのです。しかし、この湖をみたものは一人もいません。もしこの湖に人が近づくと、空がにわかにくもり、雷がはげしく鳴り、大雨が降るばかりか、あたりの草木はすべて蛇になり、湖を守る青色と赤色の毛の二頭のひぐまが牙をむき出しておそいかかるという恐ろしい場所だったのです。

だから、誰も恐れて、この湖へ行こうとせず、たとえでかけたとしてもこれまでに一人も帰ってきたものはありませんでした。

むかし、熊狩りのときアイヌの若者が山深く入り湖の近くまで行ったが、魂が抜けたようになって帰ってきて、その後再び家を出てそのまま戻らなかったという事件があったそうです。だから、この湖を見た人は誰もいないのです。

(北海道の伝説・再話)

北海道口承文芸研究会編「北海道昔ばなし 道東編」1989 中西出版
参考資料・情報など
北海道おどろおどろ物語
合田一道「北海道おどろおどろ物語」1995 幻洋社
北海道昔ばなし 道東編
北海道口承文芸研究会編「北海道昔ばなし 道東編」1989 中西出版
地理院地図
七ツ沼カール 天場
現地確認状況
未確認
その他
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更新履歴
2016/10/01 記載
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