山神さまを守るろうそく岩のへびの軍勢
ろうそく岩のヘビ
紋別市
上渚滑の立牛にあるろうそく岩は、タツウシヌプリ(立牛岳)の、山の神さまを守る祭場であり、しぜんの岩を、そのまままつったものであるといわれています。むかしから、このろうそく岩にはたくさんのヘビがいて、神さまの守護をしているのだともいわれています。
タツウシヌプリの山神さまの使いは、ユク(アイヌ語でシカのこと)であって、むかし、このタツウシヌプリには、たくさんのシカがすんでいました。ある日、山神さまがシカにまたがり、シカのむれをおともして、ろうそく岩のところまでやって来ました。
ところがそこに、ひとりの黒いふくを着たツムンチ(悪魔)がいて、木立のかげから、山神さまのりっぱでおおらかなすがたを見て、ねたみの気持ちがわいてきて、なんとか、いたずらをしてやろうと考えました。
ツムンチは、クルミの弓にクルミの矢をつがえて、大空にむかって、思いきり打ちはなちました。
すると、山の林のほうからクルミのつむじ風がまきおこり、あっというまに、シカのむれはなぎたおされ、山神さまの乗っていたシカもふきとばされてしまい、山神さまは、地面にドシンと落とされて、大けがをしてしまいました。
これを見たツムンチは、両手をたたいてたいへんよろこび、そして、調子にのって第二の矢をつがえて、こんどは、タツウシ川に打ちこみました。すると、タツウシ川は、またたくまに濁流になってしまい、タツウシ川で遊んでいた魚たちは、みんな、なきながら海にのがれていきました。
その魚たちの中に、一ぴきのサケがいて、このことを、海にいるカムイ(神)に告げました。
カムイは、さっそく魔よけの軍であるヘビを、たくさん、タツウシヌプリにさしむけたのでした。
さすがのツムンチも、たくさんのヘビにはかないません。いままでの悪いいたずらの数かずを話して、これから二度といたずらはしませんと、カムイにおわびをしたのでした。カムイは、罪のつぐないとして、ツムンチにろうそく岩をつくらせて、このろうそく岩を山神さまの住まいとしてあたえました。
カムイは、さらん、山神さまを守る軍勢として、ヘビを、ろうそく岩のまわりにたくさんおきました。それで、ろうそく岩には、ヘビがいまでもたくさんいるのだといわれています。
文・大槻 富雄
北海道郷土研究会編「北海道の伝説」1981 日本標準
ろうそく岩の蛇 --紋別-ー
紋別・上渚滑の立牛にある「ろうそく岩」は、タツウシヌプリ(立牛岳)の山の神様を守る祭壇でありました。その昔、「ろうそく岩」は、たくさんの蛇がいて山の神様の守護としてすみついていました。
タツウシヌプリの山の神様は、ユク(鹿)にまたがり、たくさんのユクを供にして、「ろうそく岩」のところまでやって来ました。ところがそこには、黒い服を着た「ツムンチ」と言う悪魔がいて、木立のかげからタツウシヌプリの山の神様をやっつけようとひそかに狙っていました。
ツムンチは、大空めがけ弓矢でおもいっきり矢をはなしました。すると、山の林からつむじ風がまきおこり、「アッ!」と言うまにユクは吹き飛ばされ、山の神様は大ケガをしました。
これを見ていたツムンチは、両手をたたいて大喜びしました。そして、調子にのり、もう一本の矢をタツウシ川に打ちこみました。すると、タツウシ川はまたたくまに濁流になってしまいました。タツウシ川で遊んでいた魚たちはみんな泣きながら海にのがれていきました。
その魚たちの中にサケがいて、このことを海にいる「カムイ」(神様)につげました。カムイは、さっそく魔よけの軍であるたくさんの蛇をタツウシヌプリにさしむけたのでした。
さすがにツムンチもたくさんの蛇にはかないませんでした。今までの悪さの数々を話し、カムイにおわびしたのでした。
「もう二度と悪さはいたしません。」
「ゆるしてください。」
カムイは、罪のつぐないとして、ツムンチに「ろうそく岩」をつくらせ、そこを山の神様の住まいとしました。さらにカムイは、山の神様を守る軍勢として、蛇を「ろうそく岩」のまわりにたくさんおきました。
それで、今も「ろうそく岩」には、蛇がたくさんいるのだと言われています。
(北海道の伝説 渡辺茂・再話)
北海道口承文芸研究会編「北海道昔ばなし 道北編」1989 中西出版