大きなカツラの木に現れたヘビの姿をしたヌッパの沢の主である龍神さま
ヌッパの沢の竜神さま
三笠市
三笠市の中心から半里(二キロメートル)ほどのところに、ヌッパの沢(抜羽の沢)という、きれいな水のたえない沢があります。
むかし、村の人びとは、この沢の水を引いて用水とし、飲み水にしたり水田揚水にして使っていました。
ある年のことでした。
お貞という村のはたらき者が沢づたいに入り、おいしそうな、大きなフキやウドをたくさんとり、やっこらさとせおってもどってきました。そして、大きなカツラの木の下でひと休みして、
「さて、あさもひいたし、はよう帰ろうか。」
と、立ちあがって、びっくりしました。
大きなヘビが、道に長くねそべっているのです。
「あっ!」
とさけび、立ちすくみますと、ヘビは、ずるずるとカツラの木にのぼっていきます。そのカツラの木のえだにも、小さなヘビがからみあって、まきついているのです。
お貞は、おそろしくておそろしくて、もう、声がでませんが、ヘビは竜神さまにちがいないと思い、目をつむっていっしんに、
「竜神さま、竜神さま。」
と、おがみました。
どのくらいたったのでしょう。
お貞は、大へびの声を聞いたのです。
「お貞よ。われは、ヌッパの沢の主である。ことしは、大変な日でりの年まわりとなった。どの沢も、どの川も水がかれ、畑も水田も不作となろう。しかし、村びとがわれを信じ、われをまつるなら、ヌッパの沢水は、たゆるくことなく流れるであろう。お貞。わすれるなよ。」
お貞が、おそるおそる目をあけてみますと、もう、ヘビのすがたは見えません。
お貞は、はうようにして家に帰りました。
村びとたちは、お貞の話しにしたがって、さっそく、カツラの大木にしめなわをはり、祠をたて、鳥居を寄進して、竜神様をまつりました。
夏になると、お告げのとおり雨のふらない日がつづき、いままでにない大干ばつになりました。
村びとは、祠のまえに集まり、お祭りをし、太鼓を打ってお祈りをしましたところ、このふきんいったいに雨がふり、どうやら、平年作になりました。
いまでも、干ばつにはお祭りをし、太鼓を打つとかならず雨がふるといわれ、大きな貯水池がつくられ、この地方のたいせつな用水源となっています。
文・伊東 博
北海道郷土研究会編「北海道の伝説」1981 日本標準
火葬場手前の林道をゆっくり車を走らせるとヌッパの沢に行き着いた。 今は堤防によって水を溜めておくようになっていたが、 夏場は細い沢になって堤防から見下ろすことができた。
醤油バッタが足元で跳ねていた。 林道をもう少し先に行って龍神の祠を探してみたが、 手がかりを見つけることはできなかった。
2021/8/23