ご神木を伐り倒した一家が落ちぶれてしまった話
「神の木と白蛇」
伐り倒した一家、悲嘆に 三笠
三笠市幾春別の幾春別川に「魚染の滝」という美しい滝があり、滝壺の上の土手に竜神が祀られている。怪奇な物語を「三笠郷土雑記」から。
この滝は明治二十二年(一八八九年)に蛇行する幾春別川を直線化するためダイナマイトを仕掛けて崩したことで生まれた人工の滝で、滝壺に群がる魚が周囲の色彩に染まって見えることから、魚染めというあでやかな名がついた。
明治の末期(一九一〇年ごろ)、ある人が滝のそばに立つ巨木を伐り倒したところ、これが白ヘビの棲む木だったことがわかり大騒ぎになった。それからというもの水難者が相次ぎ、土地の人々は、
「これは竜神のたたりだ」
と言っておののき、新たにそばにあった二抱えもあるアカダモの巨木を神の木と定め、そばに祠を建てて龍神を祀った。
ところが大正時代(一九一二年)になって羽村屋という料理店の経営者がそのアカダモの木を伐りにかかった。だれかれとなく竜神、竜神というので、
「笑わせるにもほどがある」
と考えたのだった。
羽村が鋸の目を入れて伐りだすと、突然、伐り口から血が吹き出し、あたり一面、赤く染まり、木の中から白ヘビが飛び出してきた。しかもその白ヘビが一緒にきていた羽村屋の女将の股ぐらから腹の中へ飛び込んだからたまらない。
さあ、それからというもの大繁盛が続いていた羽村屋がおかしくなった。あれほど賑わっていたのに客足は遠のき、やり手の女将が原因不明の病で倒れた。かと思うと、働き頭の芸者が多額の前借を残したままくらました。そのうち羽村屋の一角から不審火が出て建物を全焼した。
羽村屋は落ちぶれて果て、店をたたんでしまった。
おののいた羽村屋は、
「これからは竜神さまにお仕えしたい」
と、滝壺近くの土手に小さな祠を建て、板くずを集めて小屋を建てて住みつき、毎朝毎晩、龍神に祈った。
だが、落ち込んだ暮らしはそれっきりもとへ戻らなかった。村人たちは羽村屋の凋落を神の木のたたりと恐れ、女将の腹に飛び込んだ白ヘビは双頭だったという尾ひれまでつき、女将の姿を見ると恐ろしいものでも見るようにだれも近づこうとはしなかった。
竜神信仰にまつわる怪奇な物語で、いまもたたりを信ずる人が多いが、魚染めの滝はいまも変わらぬ美しさをたたえて流れている。
合田一道「北海道おどろおどろ物語」1995 幻洋社
三笠博物館で開催されていたポケモン展に子どもと出かけた道すがら立ち寄った。
人の手によってできたという滝が囂々と眼下に見えた。 神社の名前が妙力竜神神社というのは帰ってきてから知った。 不動さんが印象的な神社だった。
暑かった日で、もうちょっと下に降りてみたかったが良い道もなく、 子どもも移動していたがっていたので、フィルムを1本写して車を次の目的地、ヌッパの沢に走らせた。
滝を見下ろす場所はなんだか居心地があまり良くない、 落ち着かない雰囲気だった。 その雰囲気に押されてしまったのかもしれない。
2021/8/23