サケの豊漁を竜神に祈願することから始まったみそぎ
[佐女川神社のみそぎ]
木古内・佐女川神社のみそぎの行事は有名である。同社は寛永二年、河野広影なるものが武運長久を願って創建したといい、天保初年、時の当別の夢枕に「神体が垢で汚れているので川と海とで洗い清めよ」との神告があったので始められたといい、毎年未婚の男子四名が選ばれて五月十四日から社前の川で水垢離をとり、十五日と十七日の二回、ご神体を海中に奉持して水垢離とりをするのである。寒中の北海道で、はだかで垢離取りをするというので話題をよび、名物の一つになっている。漁業・豊作の祈願だともいう。
だが、函館図書館にある「北海道旧纂図絵」という古書に、みそぎ由来の異説あり、それによると、元禄初年、上磯の戸切地(へきりち)川にサケが登ってこなくなり、郷土岡田文太郎信忠なるものが竜神に七日間祈願することとし、もし願成就してサケがのぼれば、自分の娘二人のうち妹のほうを竜神にささげるといい、ついに八日目にサケがのぼったので、妹娘をやろうとしたが応じないため、姉のほうを海に出した。ところが海があれたので、これを知った木古内付近の住民が佐女川神社の神体をもち出して清め、これがみそぎの始まりだという。なんだかあまりスッキリせぬ伝説だが、とにかくそう書いてある。
須藤隆仙「北海道の伝記」1971 山音文学会
竜神伝説
元禄初年(一六八八)戸切地(上磯)の川に鮭が登らなくなったため、郷士岡田信忠は長女テルを舟に乗せて竜神に捧げ、このとき海が荒れたので、木古内の人々が助けたのが佐女川神社の寒中みそぎと一説にある。テルは晩秋に一夜だけ里帰りし、ある年、妹(次妹が犠牲になるはずだったが、泣いて拒否したので姉がなった)がその寝姿を見ると蛇だったといい、以来テルはこなくなったという。『松前方言考』に、海上に燐光が灯火のように連なる現象があるとし、人々が竜神の火(竜灯)だとしていることを載せている。山野にも類似の話は多くある。
南北海道史研究会編「函館・道南大辞典」1985 株式会社国書刊行会