#005 / 盤渓山妙福寺の法竜水

竜神さまから啓示を受けた場所から沸き出た法竜水

住所
札幌市 中央区盤渓455
緯度、経度
43.014405, 141.276068
※あくまで目安であり正確な情報ではない場合がありますのでご注意ください
由来

「竜神がくれた長生き水」

赤い水と白い水 札幌

開拓期の不思議な話が数多く伝えられているが、これは龍神がくれた赤と白の長生き水の話である。「さっぽろむかしあっとさ」からかいつまんで記すと。

明治中ごろ(1980年代)、札幌から離れた盤渓の山奥に妙福寺という小さな尼寺があり、日精という尼がくらしていた。日精は年老いたうえ病気にかかっていたので、神仏にすがろうと厳しい行を続けていた。

日精から白石・願本寺を引き継いだ常隆という弟子の尼は、おつとめを済ませると暗い夜道を幌見峠を越えて盤渓の寺へおもむき、師のため一週間の断食を始めた。食べものを断って経を詠み、翌朝、白石へ戻り、夜になるとまた盤渓へ、という日課だった。

断食最後の日、常隆は寺へ戻る途中、道路の真ん中にヘビの子がうごめいているのを見て驚きにうち震えた。その夜、夢枕に白い髪の老人が現れて言った。

「私は竜神だが、きょうは私の一族の者に会わせたいのだ。心配するでないぞ」

常隆はまた盤渓へ出かけたが、もうすぐ着くという時、急に眠くなり、その場に眠りこけてしまった。すると近くの笹やぶから大きな白いヘビが現れ、

「私は盤渓に棲む竜神だが、この山奥に寺を建てて万物のため法華経をとなえよ」

と述べた。その声が前夜の夢の老人と同じ、と思った瞬間、はっと夢から覚めた。

それからほどなく常隆はまた竜神から不思議なお告げを聞いた。

「山奥に万病にきく白い水と赤い水が沸き出る場所を教えよう。三月二十八日午後一時から二時の間に天が示す一点を記憶してその地点に鍬を打ち込めば水が沸いてこよう」

常隆は日精にこれまでのことを話し、当日、本堂で竜神のお告げを待った。

突然、物凄い地鳴りが起こり、大風が吹き荒れ、いなづまが鋭く光って砂を撒くようなざーっという音がした。その瞬間、まっ暗闇になった。

夜が明けて二人は何か目印がないかと探したが、ついに見つからなかったので、鋭い光が刺したあたりに立ちどまり、静かに題目をとなえながら一鍬、ばしっと打ち込んだ。

すると急に黒い土が盛り上がり、水が沸き出てきた。二人は感激し、手を取って喜び合った。日精はこの水を「法竜水」と名付けた。

その後、ここに湯殿を造ろうともう一ヵ所掘ったところ、こんどは赤褐色の水が出てきた。そこでこれを「妙竜水」と名付けた。竜神のお告げ通りに白い水と赤い水だった。

法竜水は夏でも冷たく、この水を飲むと胃の具合がよくなり、目の悪い人はこの水で洗うとよくなるといわれ、札幌はもとより遠くからやってきて水を一升瓶に詰めて持ち帰る人が目立ちだした。

妙竜水の湯は皮膚病にも神経痛にもよく効くと評判になり、湯につかりにくる人々が増え、だれ言うとなく「盤渓長生き水」と呼ばれるようになった。

妙竜水の湯殿は崖崩れに遭い、いまはないが、法竜水は現在も堂の中の井戸でこんこんと沸き続けている。

合田一道「北海道おどろおどろ物語」1995 幻洋社
参考資料・情報など
北海道おどろおどろ物語
合田一道「北海道おどろおどろ物語」1995 幻洋社
伝説は生きている [写真で見る北海道の口承文芸]
高田紀子「伝説は生きている [写真で見る北海道の口承文芸]」2007 高田紀子 製作協力 北海道新聞社出版局
「盤渓山妙福寺縁起 放流水ものがたり」
井門半次郎「伝説は生きている [写真で見る北海道の口承文芸]」1974 井門 義徳
現地確認状況

2018/10/02 確認済み

2020/10/25 再訪問

その他
2020/10/14、Web上で古葉書を見つけた。 盤渓山にはお寺からもいける道があったようで、頂上付近に祠があったようだ。

龍神堂へ参詣途中の白龍堂 海抜六〇二粁山頂の龍神堂 龍神龍珠大菩薩珠光堂
http://gazo.library.city.sapporo.jp/shiryouDetail/shiryouDetail.php?listId=486&recId=103651&pageId=1&thumPageNo=1
http://gazo.library.city.sapporo.jp/shiryouDetail/shiryouDetail.php?listId=486&recId=103651&pageId=1&thumPageNo=1





盤渓山頂上の祠が写っている絵葉書(龍神堂へ参詣途中の白龍堂 海抜六〇二粁山頂の龍神堂 龍神龍珠大菩薩珠光堂)の場所を求めて朝一から登る。 風が強く、時折雨がちらつく10月も終わりの軽登山。

登山口から2つある分岐点は事前に情報を得ているか、GPSのルートなどがないと迷うポイントだが、それ以外はスムーズな一本道。 明瞭な踏み跡もあって手入れも行き届いている。 前夜の雨でぬれた落ち葉の上はやや滑りやすいが、稜線沿いのルートは見通しも良く歩きやすい。10年物の雨合羽はシームテープがはがれてきたが、まだ使える。

パラパラと降る雨も気にならず、紅葉している山の景色が美しい。 風が強かったので、笹が風に揺られて波打っている。赤や黄色の落ち葉が風に飛んでいく。 中盤ぐらいに、たばこの灰皿としての石がいくつかある。軟石だろうか、経年劣化していて趣がある。

やや急な上り坂はあるものの順調に楽しく歩く。頂上付近で降りてきた男性と会い少し話をする。 ややすると頂上、立派なケルンが見え、それを過ぎると頂上に立つことができる。札幌の街が一望できるぬけのよい景色。風は強いが心地よい。 誰もいない山頂にて、ゆっくりと景色を楽しむ。

ケルンに戻って詳細を確認する。 土台は明らかに建物があった土台、祠の後だったことがわかる。 しっかり頑丈に作られている基礎で、労力が費やされたことがわかる。 お湯を沸かして体を温めながら撮影する。風の強い山頂にひとりいることは何とも形容しがたい不思議さが襲う。 虹が空にかかる。天気が目まぐるしく変わる。

天気が安定せずに誰も登ってこないと思っていたが、撮影を終えて山を下りる際には3人ほどの登山者に出会った。 天気が悪い時にさくっと登る山として人気があるのかもしれない。

山を下りてから登山口から奥にある妙福寺さんに寄ってみる。 お寺の入り口に女性が二人、挨拶をしてくれた。 マスクを持って挨拶をして、お寺の方という女性に頂上の祠についてきいてみる。

突然の訳も分からない人間のぶしつけな質問に気を悪くされずに話を聞いてもらえる。 いつも自分のような素性のわからないものが訪ねてくることに申し訳なさを感じつつも、 でもやっぱり知りたい、聞いてみたいという思いを最近は素直に伝えて話を聞くようにしている。 中腹におこもり堂があったことを聞くが、山頂のものはどうだったか定かではない様子。

住職は日曜日10時の行事のようなものがあるということでご不在だったが、 快く本堂に入れてもらい話を聞かせていただく。 代々の住職は女性の方だという。写真が右手に掲げられている。 多くの信者さんに支えられていることがわかる。かつての例祭などには本堂に入りきらないぐらいの信者さんの数が集まったという。 現在も道内各地から訪れており、幼少に訪れたことを懐かしむ方も少なくないようだ。 10年ほど前から妙心寺さんによってこちらのお寺は継がれているということで、それ以前のことは資料などによって確認できる状態だった。 お堂脇の写真を見ると、絵葉書の祠と思しき堂が写っている。 やはり絵葉書は間違いないようだった。 最後にお寺の由来が書かれた本をいただくことができた。 これは数年前に札幌中央図書館で見た、このお寺の由来が書いてある本で、 再読しようと思っていたのでとてもありがたい。

その足で法竜水をいただき、山奥への道を少しだけ歩いた。 夏は草が茂っているが、冬にはその道を歩いて(土地勘がないと簡単ではないだろうが)山頂まで行くこともあると教えてもらった。 冬の楽しみができた。お礼とともにその場所を離れた。 2年前に来たときは自転車で、かつ不在で話が聞けなかったこともあり、あまり心に留まることがなかったが、 今回こうして山を登り、会話をすることでその場所が自分の中で占める位置が変わってきた。 そうやって風景は自らの内側で浮上しては消えていく無形のもの。

帰ってから、ゆっくりとその本を読んでみた。 本殿の左上にはかつて竜神堂があった写真が掲載されている。 火災予防のため山頂から中腹に移して新設されたおこもり堂の写真もある。 もともと山頂にあったのがおこもりできるお堂だったことがわかる。 最初の山上逍拝堂(珠玉窟)は昭和3年の夏に建立とあり、その写真も掲載されている。

この寺院はもともとは豊平川にあった見慣れぬ半透明のつややかな小石であり、中にお坊さんがいるという「御霊石」が由来の始まり。 盤渓山はかつては竜神山と呼ばれていたこともわかる。 開山の苦労、竜神との交流、この地に開かれた歴史を改めて確認する。 自分には仏教の知識が少なすぎるのでこれを機会に宗派の違いぐらいは勉強しておこうと思う。 なんだかとても居心地がよく、惹かれるものが多かった。また近々お参りに行こう。(2020/10/28)

更新履歴
2020/10/28 その他記載、写真掲載
2020/10/14 その他記載
2018/10/02 写真掲載
2016/10/01 記載
2018/08/26
2018/08/26
2018/08/26
2018/08/26
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2018/08/26
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2020/10/25
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