#243 / 茂辺地川の龍神伝説

茂辺地川の龍神伝説

住所
〒049-0286 北海道北斗市矢不来138
緯度、経度
41.770251, 140.604705
※あくまで目安であり正確な情報ではない場合がありますのでご注意ください
由来1

茂辺地川の竜神伝説

人身御供の犠姫

上磯




人身御供などといっても、その意味を解釈しかねる人も多かろう。

これは神に備える神饌(しんせん)のひとつで、神に生身の人間を捧げることによって神授を受ける行為である。

かつては真摯な行為として崇められたといわれ、まか不思議というほかない。

上磯町茂辺地に伝わる犠姫伝説はその時代を映した哀しみの物語としてひそやかに語り継がれてきた。「北海道の口碑伝説」によるとーー。

毎年秋になると茂辺地川にはサケが群れをなしてのぼり、この地の人たちはこれを獲って暮らしをたてていた。ところがある年、秋の月影が月影が川面に映るころになっても、どうしたことか一尾のサケも姿を見せず、人々は困惑していた。

ある夜、領主の領主の下国氏の夢枕に何者かが立ち、

「お前の愛姫を海神に捧げれば、量は前年の倍にもなるであろう」

と告げて忽然と消えた。下国氏には花のように美しい十八歳の姫がいた。父が思い悩んでいるのを知った姫は、父に事情を尋ねた。父は仕方なく夢枕の話を娘に聞かせ、

「何も案ずることはない」

と心からなだめた。姫はしばらく考えていたが、やがて決意したように瞳をあけ、

「わたしが領民のために犠牲になりましょう。先立つ不幸をお許しください」

と言うが早いか、驚いてとめようとする父の手を振り切って外へ駆け出し、海辺の完璧に立つと、月光に輝く海に向かって深々と合掌し、断崖から身をひるがえした。

翌日、突如として茂辺地川に酒が溢れるごとくのぼってきた。人々は神に身を捧げた姫の贈りものだ、といって涙を流してサケを撮りまくったと言う。

これとよく似た話がとなりの戸切地川にも伝承されている。照姫、雪姫という姉妹のうち、龍神に身を捧げた姉が毎年、嵐の夜に家に帰ってくる。が、見てはいけないというその正体を除いて妹は仰天した。そこに横たわっているのは不気味な蛇だったーー。

ひるがえってこの当時、神の存在は絶対であった。神にぬかずき神饌を供える行為によって神に守護され、安寧が約束されると信じられた。だからこの犠姫の場合も、神のお告げにより、領民のために自分が犠牲になることによって集落の安泰を願おうとした。領民もまた、素直に神に身を捧げた姫の行為に感謝の念を抱いたのである。

歴史をひもといていくと、現代では理解できない思いがけない真実が浮かび上がってくる。それはその時代、時代を真摯に生きた人々の姿であり、それを現代の感覚で一笑に一笑にふすことはできない。

下国氏の館跡は現在、矢不来天満宮になっており、崩れ落ちた土塁がかすかに昔の面影をとどめている。眼下に茂辺地川が穏やかな流れを見せて太平洋にそそいでいる。

ここに立つと、はるか数百年昔へ引きずり込まれていくようなおののきを覚える。

(115−116頁)

合田一道「北海道ふしぎふしぎ物語」
参考資料・情報など
合田一道「北海道ふしぎふしぎ物語」
合田一道「北海道ふしぎふしぎ物語」1982/3 玄洋社
現地確認状況
未確認
その他

北斗市 戸切地 戸切地川にも似た話あり

#071 / 上磯町(北斗市) 竜神に身ささげた照姫

更新履歴
2022/09/17 記載
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